日本が世界に誇る製茶業界が、今大きな変革の波に直面しています。長い歴史と伝統に支えられてきたこの業界も、現代社会特有の課題と無縁ではありません。本日は、AGO MARKETING株式会社が静岡県掛川市の製茶会社様と共に取り組んだ、AIを活用した革新的な業務効率化事例をご紹介します。
背景:製茶業界を取り巻く厳しい現実
現在の製茶業界は、複数の深刻な構造的課題に直面しています。全国的に深刻化する労働者不足は、茶畑の管理から製造、販売に至るまで、あらゆる工程に影響を及ぼしており、業界全体の持続可能性を脅かしています。
さらに今年の記録的な猛暑は、茶葉の収穫量に直接的な打撃を与えました。高温による品質低下と収量減少により、茶葉価格の高騰が製茶会社の経営を大きく圧迫する事態となっています。このような外部環境の急激な変化に対応するため、業界全体で抜本的な業務効率化への取り組みが急務となっていました。
静岡県掛川市の製茶会社においても、これらの業界共通課題に加え、内部的な問題を抱えていました。長年にわたって紙ベースでの業務管理が続いており、情報の検索や共有に多大な時間と労力を要していたのです。デジタル化の遅れが業務効率の向上を阻害する大きな要因となっていました。
課題:熟練技術の「サイロ化」が生む非効率
同社が直面していた最も深刻な課題は、業務ナレッジの完全なサイロ化でした。製茶の現場では、長年の経験と勘によって培われた熟練茶師の技術や知識が製品品質を決定的に左右します。しかし、その貴重なノウハウが個々の茶師の頭の中に留まり、組織として体系的に共有されていない状況が続いていました。
具体的には、茶葉の「火入れ」の微妙な加減、複雑な製茶機械の操作方法、品質判断のポイントなど、茶師だけが知る秘伝とも言える知識が数多く存在していました。このため、社員が業務を進める際には、その都度茶師に直接質問する必要があり、毎日約1時間もの時間が問い合わせ対応に費やされていました。
この状況は茶師の本来業務への集中を妨げるだけでなく、口頭での情報伝達に依存することで情報の正確性や一貫性にも課題を生じさせていました。さらに、新人教育においても体系的な教育資料が不足しており、技術継承と人材育成の効率化も重要な経営課題となっていたのです。

解決策:AIを活用した知識の「見える化」革命
AGO MARKETING株式会社では、このサイロ化された貴重な知識を組織全体で共有可能な資産へと変革するため、段階的なアプローチを採用しました。
第一段階:現場密着型のヒアリング まず着手したのは、熟練茶師への詳細なインタビューです。火入れの具体的な手順、機械の細かな調整方法、品質を見極めるポイントなど、これまで言語化されてこなかった暗黙知を徹底的に掘り下げました。この際、製茶業界の専門知識を持たない担当者があえて基本的な質問を重ねることで、専門家同士では省略されがちな重要な情報も含めて、極めて解像度の高い情報収集を実現しました。
第二段階:音声記録のテキスト化 収集した膨大なインタビュー音声は全て丁寧に文字起こしを行い、検索可能なデジタルデータとして蓄積しました。手順、条件分岐、注意点をQ&A形式、用語集、チェックリストに体系的に整理することで、誰でも理解できる形式に変換しました。
第三段階:NotebookLMによるナレッジベース構築 このデータを活用するために選択したのが、GoogleのAIツール「NotebookLM」です。文書、メモ、画像(機械パネルや設定例)をNotebookLMに集約し、社員がチャットベースで質問し、必要な情報に即座にアクセスできるシステムを構築しました。
第四段階:運用定着支援 現場での使い方トレーニング、検索のコツ、更新ルールを策定し、重要頻出テーマから小さく始めて短期間で効果を体感できるよう支援しました。
成果:劇的な業務効率化と意識変革の実現
この取り組みは、製茶会社様に目覚ましい成果をもたらしました。最も顕著な効果は業務効率の大幅な向上です。従来、社員が茶師に対して行っていた日常的な質問や確認作業を分析した結果、月間約30時間の時間短縮効果を達成しました。
この時間短縮により、茶師はより高度な製茶技術の研究や品質改善に集中できるようになり、社員側も作業の中断時間が大幅に削減され、全体の生産性が向上しました。
さらに特筆すべきは、当初は新しいシステムに対して慎重だった茶師ご自身が、AIの可能性を強く実感し、積極的にシステムを活用するようになったことです。現在では発注データなどの業務情報も自ら入力し、社内での情報共有を促進しています。これは単なるツール導入を超えて、現場の意識改革とAIを自律的に活用する文化の醸成に成功したことを示しています。
静岡の製茶会社がAGO MARKETING株式会社を選んだ理由
同社がAGO MARKETING株式会社をパートナーとして選択した背景には、複数の重要な要因がありました。
製造業での実務経験による現場理解 代表取締役の吾郷が元々製造業でマーケティング業務に従事していた経験を持ち、製造現場特有の課題や文化を深く理解していたことが大きな決め手となりました。机上の理論ではなく、現場の実情に根ざした実践的な提案が可能でした。
業界特化の実績とノウハウ 以前に紅茶会社でのコンサルティング実績があり、製茶業界と共通する課題や業務プロセスに対する深い理解があることも高く評価されました。この業界知識により、製茶会社固有の課題を的確に把握し、実効性の高いソリューションを提案することができました。
現場密着型のアプローチ 社長様からの「コンサルタントには現場をもっと理解してほしい」という強い要望に応え、工場見学を実施し、実際の製茶工程を詳細に観察しました。さらに、プロジェクト期間中は頻繁に静岡の現場を訪問し、現場の空気を感じ、そこで働く方々の声に耳を傾ける現場密着型のコンサルティングアプローチを採用しました。
ソリューションの紹介:無料ツールで実現するスマートDX
AGO MARKETING株式会社が提供するソリューションの最大の特徴は、顧客企業の具体的な課題を詳細にヒアリングし、それぞれの課題に最適化された無料ツールの活用方法を提案することです。
課題起点のアプローチ 高額なシステム導入ありきではなく、まずボトルネックの特定(問い合わせ集中、紙運用、属人化など)を行い、効果が出やすい領域から優先順位を付けて取り組みます。
NotebookLMの戦略的活用 今回の事例では、GoogleのNotebookLMを中核としたシステムを提案しました。このツールは専門的なプログラミング知識を必要とせず、比較的短期間でシステムを導入できる特徴があります。ナレッジの一元化、チャット検索機能、継続的な更新運用を可能にし、現場主導で情報が育つ仕組みを設計しました。
継続的な定着支援 単なるツール導入で終わらず、使い方トレーニングと小さな成功体験の設計、更新ルールの明文化と担当の分担により、継続運用を確実に支援します。
まとめ:伝統産業が切り拓くDXの新たな可能性
今回の静岡県掛川市の製茶会社における事例は、伝統的な製造業においてもAI技術を活用した業務効率化が十分に実現可能であることを実証した画期的な成功事例です。熟練技術者の知識を体系化し、組織全体で共有可能な形にデジタル化することで、人材不足や技術継承という現代的課題に対する有効な解決策を提示できました。
この取り組みの成功要因は、技術導入ありきではなく、現場の課題を深く理解した上で最適なソリューションを選択したことにあります。また、無料ツールを効果的に活用することで、中小企業でも導入しやすいコストパフォーマンスの高いシステムを実現できた点も重要です。
暗黙知の可視化と検索性の向上は、現場の中断を減らし、人材育成の質も引き上げます。今後は工程ごとのSOP整備や、品質・発注データとの連携など、データドリブンな改善へと展開していく予定です。AGO MARKETING株式会社は、引き続き現場密着で伴走してまいります。
代表取締役のプロフィール
吾郷 潤(Jun Ago)
AI戦略家・AGO MARKETING株式会社 代表取締役
1979年東京生まれ、現在千葉県在住。University of Nebraska Lincolnを卒業し、在学中には北京大学への留学経験も持つ国際的な視野を備えたビジネスリーダーです。
キャリアは大手飲料メーカーのサントリーでの新規開拓営業からスタートし、マーケティング部門で幅広い業務を経験しました。その後、ユニリーバ、スワロフスキー、QVCなどの外資系企業においてマーケティング全般を担当し、グローバルな視点でのマーケティング戦略立案に携わりました。
ウォルト・ディズニージャパンではマーケティングデータアナリストとして、エンターテインメント業界におけるデータ分析とマーケティング戦略の融合に取り組み、最近ではNECにおいてシニアデータサイエンティストとして生成AI導入プロジェクトマネージャーを務め、企業のAI活用推進に関する豊富な実務経験を積んでいます。
製造業からエンターテインメント、IT業界まで多様な業界での経験を活かし、現在は中小企業のDX推進とAI活用支援に特化したコンサルティング事業を展開。特に、現場密着型のアプローチと実践的なソリューション提案を強みとしています。



